ずっとずっと見てるのに、ずっとずっと、想いを抱き続けているのに

その、人は

何も気付かないままで。







プリズム








「・・・・・」

深夜。すべてが静まりかえっている、時に。
そっと寝所をでていくアキュラスを見た。

別にこそこそとしている風でもなく。
ただ、どうしたのかと気になった俺は、気をつけながら後をつけて。


ぼうっと浮かぶ月が、銀髪を照らしている。
光が反射して優しくキラキラと光るさまは、とても幻想的で、綺麗だった。


…まるで、その人自身のような。




思ったことを、振り払うでもないのは、もう自覚してしまっているからだ。
俺は、アキュラスが好きで。

初めは、ありえないと、思ったけれど。今はもう断言できる。
どうしようもないこの感情は…


日に日に増していくのに対し、どうすることもできないまま。
どこへ持っていけば良いのかも、伝える勇気も、なくて。


…もどかしい。


どれだけ想おうと、彼の人はこちらを見ることはない。
けれどあきらめきれない、自分が居る。



物思いもそれくらいにし、後をつけてたどり着いた場所は、小高い丘の上だった。
ただ一本、木があり、地面には月の光を写す、白い花

アキュラスは馴れた様子で木に登り、枝の上に座った。




「…グレイ。」

後ろを振り向いて、一言。

ばれてたのか…。


ぴくりと肩を動かしたのも、気配で感じとられたのではないだろうか。




「そんな所にいないで、こっちに来たらどうだ?」

優しい微笑を浮かべてアキュラスは言う。


「そこにいるのは、わかってるよ。」



怒るでもなく、傍にと招いてくれたことが、うれしかった。

たとえそれが、ヤマトやブルやシン、…炎呪にも

平等に与えているものだとしても。

俺は。





「アキュラス…その、すまない。遅くに出て行くから…」

「気にしてない。…グレイも良かったら、隣に座らないか?」


ここは景色が綺麗なんだ−…


と、月に目線を移して呟く。




俺は黙って、アキュラスの横に行った。



「…本当に、綺麗だな…」
「だろう?」



心底嬉しそうに微笑む様子は、今まで見たことのないもの。

他の人に見せたかどうかは、わからない。
けれど今この時だけは、自分だけのものだと思いたかった。



そして、新しい表情を見られたことが、素直に嬉しく。


「だが俺は、アキュラスの方が…綺麗だと思うけどな…」


気がつけば、口にしていた、この言葉。




言った後で、すごく後悔した。

なんてクサイセリフを。


ずんと、落ち込んで、俺は俯いた。
あぁどうすれば。
ドン引きされたに違いない。



男同士で、言うか普通…という話だ。そんなこと。





けれどそんな俺の心情などいざ知らず

「グレイ」

と変わらぬ声で呼ぶアキュラスは

怖々顔をあげる俺に


「ありがとう。」

そう、顔を赤らめながら

言った。




とても綺麗で。
同時にとてもかわいらしくて

ついクスリと笑ってしまった事に対し、眉を寄せるアキュラスに、一つ謝ったならば

そろそろ、帰ろうかと、問いかけた。


こくりと頷いて

二人で、木から下りて

俺が差し出した手を

アキュラスがとって



あぁ、まだこの思いは伝えられないけれど

もどかしいままで、辛い日々は、続くだろうけれど


俺は今が、とても幸せだ。

だから。






その幸せを手放すまいと、思った。
その決意を表すかのように、手を握る力は強くなる。

絶対絶対、離しはしない。


たとえ君に思いを伝えられなくとも

このささやかな、幸せだけは。



















『この月はプリズムのように。彼の人はプリズムのように。』



初めて書いたバトビ文章。今(10年01月)読み返すとすごく恥ずかしい


執筆...06/07/26 UP...06/07/26