辺りに響いたのは、爆発による騒音





>>001 日常的出来事の産物







「あっちゃぁーやってもた。」

実験室の中をみて、軽く言い放つ男。

まるで、ジュースをこぼしてしまったとか、そんな些細な失敗をした。といったように。

…けれど。

この「失敗」はそんなに小さなものではなかった。
なんせ、部屋はもはや、部屋と言えないような有様で。
半分崩れ。
爆風で研究レポートは飛んでいく。


「やーヒドイ事になって。また亜水弥(あみや)ちゃんに怒られるなー
…さっさととんずらしてしもて、なんや他の奴のせいにでも…」

「そんな事をしても無駄なことです。みてましたから。」

どうやって人のせいにするか。ということを、ぼそぼそと呟いているうちに
扉…が”さきほどまであった”所に、人。
女性だ。 髪はそれほど長くない。後ろで一つに束ねている。
男の方を睨み付けて、動かない。

「あー亜水弥ちゃん?怒って…る?」

「…当たり前じゃないですか!こんなにして!
この間直したばかりの実験室はめちゃくちゃ!どうして下さるんです!?」

「悪いって、ちゃんとおもっとるよ?うん。
でもこないなったんはしょーがな「くありません!毎度毎度…」

言葉を遮って、亜水弥は叫ぶ。そう、毎度のことなのだ。



この男―風靡 鼎は、研究者だ。

何を研究しているかというと、まぁ色々雑多に…なのだが。
ただいま熱中して研究しているのが、時空間移動機器。
わかりやすく言えば、タイムマシン。

そりゃぁ簡単にぱっとできるわけもないので、
失敗は当たり前と言えば当たり前なのだが…


…失敗具合が、半端ではないのだ。

起きるのはいつも大爆発だし、3日に一度くらいの感覚でおきる。
修理が追いつくはずもない。
ので、たくさんの部屋を作り失敗するごとに移動している。

片づけや整理は、もちろん亜水弥がやらなければならない。
一人で、ではないが、重労働にかわりはない。

怒るのも当然である。


「まぁまぁ。今回はまだ、全部吹っ飛んだってわけやないし…
けが人だっておらへん。俺だってぴんぴん。それでえーやん。」

「それは、良かったですけど…でも良くないです!もう少し気をつけて下さい」

「ありがと。心配してくれたんやね。」

鼎がそう言うと、ふい、と横をむく亜水弥。照れているのか、顔が赤い。


「かわいーなぁ。」

「かっ!からかわないでください」

「本心で言ったんよー?」

「もう少し真面目になって下さい」

つめたいなーと、鼎は、亜水弥の目線に合わせ、曲げていた背中を伸ばす。

鼎は、結構背が高い。仕事上運動をしょっちゅうしているわけでもないので細身だが。
一方亜水弥は背が低い方。彼女は密かに気にしていたりする。

というわけで…その身長差故に、鼎は体を曲げていたのだ。

そうして目線を合わせる事もないのでは?と思うかもしれないが
彼の信念で、話すときは目を合わすことにしているらしい。


しかし、亜水弥は、そんな信念がなかったところで
目線を合わせてくれるのだろうと、知っている。

優しい人だから。 
子供相手の時には、わざわざしゃがんで、熱心に話を聞く人。

誰にでも親切にする事はないけれど、
本当に頼りたいとき、傍にいてくれるような人なのだ。

亜水弥はこういう、少しの、些細な鼎の優しさが好きで、彼と共に研究しているのである。


「っと、それじゃあ失敗作の片づけでもしましょーか。…え。」
「…どうしたんですか?鼎さん。って、う、嘘ですよね」

目の前には、見知らぬ女の子がいた。







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