人と人とは、難しい。
踏み込みすぎてもいけないし、遠ざかっていては何も見えない。
傷つけないよう、寂しがらせないよう、丁度良い距離を保つのは。  ―この上なく、難しい。





>>005 焦心苦慮せず前進せよ







「…シャーナを放って、走ってってしもたんやて?」

「…うん、そう。 シャーナから聞いた…?」

「いや、見てる研究員がおったんよ。どうしたか、はなしてみ?」

「…まだ、怖くて。つまり…俺は、弱いってこと…なんです。」


祁葉は、鼎に、すべてを話した。
不思議と、冷静に、怖がることなく話せた。

それは、安心しているということなのだろう。
鼎の、温かい瞳のお陰なのかもしれない。


鼎は祁葉の過去のことは知っている。
祁葉のことはだいたい、知っている。



「…そっか。まだ、ぬけきらへんのやね。過去の、ことが」

「…うん。ごめんなさい。鼎さんには、良くしてもらってるのに」

「なーにいうてるんよ、しゃーないやろ。過去はなくならん。わすれたあかん。
でも、捕らわれとってもあかんていうだけや。祁ぃは、一生懸命進もうとしてる。だから大丈夫」

「鼎さん」

「シャーナのこと、おこらんといたりな。きっと祁ぃのこと思て言ったんやろうから。」

「…わかって、る。…謝り…ます…」

「さっすが!それでこそ祁ぃ。まだ、怖いかもしれへんけど。ゆっくりで、ええから。」

にこっと、少年のように鼎は笑う。
つられて、少し、ほんの少しだけれど、祁葉も笑った。

くしゃっと、頭を、撫でられる。

顔を上げれば、いたずらっこのような鼎の姿があって。



「じゃ、俺はそろそろ寝るな。」

「おやすみなさい」



そういって、別れる。






正直、本当に、まだ、俺は怖い

鼎さんと、亜水弥以外の人間を、信用しきれてない。恐怖心が拭えない

でも、少しずつ、進んでは、いるんですね


焦らなくても良いと、言った。

その言葉が

とても、ありがたかった。





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焦心苦慮
心配していらだつさま。思い悩み心が焦ることの意

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