人と人とは、難しい。
踏み込みすぎてもいけないし、遠ざかっていては何も見えない。
傷つけないよう、寂しがらせないよう、丁度良い距離を保つのは。 ―この上なく、難しい。
「…シャーナを放って、走ってってしもたんやて?」 「…うん、そう。 シャーナから聞いた…?」 「いや、見てる研究員がおったんよ。どうしたか、はなしてみ?」 「…まだ、怖くて。つまり…俺は、弱いってこと…なんです。」 祁葉は、鼎に、すべてを話した。 不思議と、冷静に、怖がることなく話せた。 それは、安心しているということなのだろう。 鼎の、温かい瞳のお陰なのかもしれない。 鼎は祁葉の過去のことは知っている。 祁葉のことはだいたい、知っている。 「…そっか。まだ、ぬけきらへんのやね。過去の、ことが」 「…うん。ごめんなさい。鼎さんには、良くしてもらってるのに」 「なーにいうてるんよ、しゃーないやろ。過去はなくならん。わすれたあかん。 でも、捕らわれとってもあかんていうだけや。祁ぃは、一生懸命進もうとしてる。だから大丈夫」 「鼎さん」 「シャーナのこと、おこらんといたりな。きっと祁ぃのこと思て言ったんやろうから。」 「…わかって、る。…謝り…ます…」 「さっすが!それでこそ祁ぃ。まだ、怖いかもしれへんけど。ゆっくりで、ええから。」 にこっと、少年のように鼎は笑う。 つられて、少し、ほんの少しだけれど、祁葉も笑った。 くしゃっと、頭を、撫でられる。 顔を上げれば、いたずらっこのような鼎の姿があって。 「じゃ、俺はそろそろ寝るな。」 「おやすみなさい」 そういって、別れる。 正直、本当に、まだ、俺は怖い 鼎さんと、亜水弥以外の人間を、信用しきれてない。恐怖心が拭えない でも、少しずつ、進んでは、いるんですね 焦らなくても良いと、言った。 その言葉が とても、ありがたかった。 −−−−−−− 焦心苦慮 心配していらだつさま。思い悩み心が焦ることの意 戻る