救ってるんやない、優しいんやない。ただ、俺が、寂しいだけや、本当は。

助けたふりして…あかんなぁ。時々この頭が憎ぅなる。
なにもかも、わかってしまう。言ったことに対しどう反応されるかとか

騙してるつもりやないけど怖くて言えん自分が居るのは事実。

でもきっと知っても、二人のことやから 軽蔑したりせぇへんのやろな。
そんでそれが余計苦しくなるんや、勝手な俺は

ただ、そうなっても、これだけは信じてほしいねん。
俺は本当に、二人を大切に思ってて、できることなら、傍に居てほしいと

ずっと、いてほしいと

おもって、るんや





>>008 鼎的非機械心







「鼎さんっ!」 
パタパタと廊下を走ってくる音と共に、少年の少し高い声。

「なんや?」
呼ばれた方は振り返りながらそう問う。
すると走ってきた少年ー祁葉は、鼎の白衣の裾を引っ張りながらハァハァと息を落ち着けた。

「そんなに走ってきたん?」
「え、っと…どーにかして下さい!!」
「はぁ?」

訳がわからないままふと祁葉の後ろをみてみると、シャーナの姿。

「ど、どこ行くにもついてくるんだ!そ、その、トイレとかにも…」
「…シャーナ変態だったの?機械なのに。…覗き…?」
「違います!そんときゃさすがに外で待ってるけど…!」
「そうですよ〜見ようと思うなら遠くからでも透視できますし」

鼎のアホっぽい返答に、思いっきり否定する祁葉と軽くそれに同意するシャーナ。
と、いうかさりげなく恐ろしい事を聞いた気がするのだが…気のせいと言うことで。

「へぇ。…なんでそんなこと?」
シャーナに向けて鼎は聞いた。声音は低くなく、怒ってるわけではなく軽い感じで。


「祁葉さん、一人が嫌いだからですよ〜人見知りなのに。」


・・・・・少しの沈黙。


「ななな!!何いってんだよテメェ!んなわけねーだろ!
暗くたって一人で寝れるし狭くたってへーきだし!だれが怖くて泣くって!?変なこと言うな!」

「いや、誰もそこまで言ってへんよ、祁葉。」
「ボロでまくりですね〜」

取り乱した祁葉に冷静なつっこみと追い打ち。


「だ、だまれシャーナ!!かかか鼎さんっ!こんな事は一切ありませんからっ!」
「祁葉ったらもーそんなんやったら言うてやぁ〜添い寝でもしてやんのにぃ」
「わぁすごい。祁葉さんの予想通りの言葉ですねぇ〜」

ぎゃぁぎゃぁと言っている三人。なんだかそれぞれバラバラなテンポで。
真っ赤になってあたふたとしている祁葉は、どうやったら落ち着くのか…

そうして少したって、興奮がおさまってきた頃、鼎はふと呟いた。
「なぁんて、傍に居てやるなんてカッコつけて…ホンマは俺がいたいだけやねんけど」
「…へ…?」

いつも言わないような事をいう鼎を、祁葉はきょとんとして見上げた。

「祁葉も、亜水弥も、俺すっごい好きやから。亜水弥がくるまで…一人やったし。
だからやっぱ二人おらんくなったら…やってけんと思うもん。」

「鼎さん…」 

シャーナはだまって見守っている。
鼎はそっと、祁葉の頭を、なでた。

「変なおもっくるしい話してごめんな?でも、真面目な話。
行きたいと思う場所ができるまで、傍に、おってほしいんよ。俺の、我が儘」
にっこりと、笑う。
祁葉に向かって。

祁葉は「俺の方が、傍にいたいです」という言葉を出せずに、ただ
「はい」
とだけ、鼎に言った。

けれども、あまりみえない鼎の心が垣間見えたのは、すごく嬉しくて。

そして、鼎は。
はいと笑顔で答えてくれた祁葉に、改めて大切だと思う気持ちを感じた。
少しでも、過去から進むことができるように
できることがあるのなら

精一杯、何かしてあげたいと


けれどそれは優しさでもなんでもない

本当の優しさは

手を貸さずに

見守っていてあげることだ。


人の手を借りたなら結局進めたことにはならない。


けれど時々甘やかしてしまう自分を
必死で、差し出そうとする手を引っ込めたなら
結局自分は何もできず、我儘なだけなのだと気付いて

だからせめて

辛いときに、帰る場所に

それは、やはり自分が寂しい故なのかもしれないけれど

それでも

「想う」気持ちは本物だから。








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